
長年にわたり事業を支えてきた基幹システムは、企業にとって競争力の源泉であると同時に、近年では変革の足かせにもなりうる存在だ。経済産業省が2018年9月の「DXレポート」で警鐘を鳴らした「2025年の崖」は、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムが残存することで、年間最大12兆円もの経済損失が生じうると指摘する。システムの寿命が企業の意思決定速度を規定し、技術的負債が新規投資の余力をも奪ってしまう。レガシー化とは、単なる技術課題ではなく、経営そのものの機動力に関わる問題といえる。
しかし、2026年の今日でも問題は解消に到ってはいない。経済産業省の報告によれば、レガシーシステムを保有する企業は全産業で61%にのぼる。また、実態調査では、そもそも「2025年の崖」という言葉の内容を理解していない層が6割近くを占めるという認識ギャップも明らかになっている。さらに、モダナイゼーションの必要性を認識しながら4割超が「構想止まり」にとどまり、その理由として「投資対効果が不明確」「移行期間やコストを見積もれない」が上位に挙がる。「2025年の崖」によって影響を受ける企業は、大企業ばかりではなく中小企業や個人事業主までも範疇とされており、事業規模を問わず、理由は揃っているが“動くための判断材料が足りない”ことが多くの企業に共通する現状ではないだろうか。
本書『IT Leaders Essentials 2026 August』は、IT Leaders掲載記事より抜粋・再編集し、レガシーに起因する停滞を打開するための材料を調査データと先進事例の両面で解説する。IDC Japanによる国内ITモダナイゼーション市場の中期予測(年平均成長率10.2%、2030年に2兆1234億円)をはじめとする3本の実態調査に加え、造船・鉄鋼・建設・金融という業種の異なる4社の刷新事例も収録する。AI駆動開発による完全内製化、約3400万行の一括Javaリライト、Fit to Standardを徹底したクラウドERP導入、勘定系オープン化にともなう帳票基盤の集約と、アプローチも規模も異なる実践知を横断的に吸収できる内容となっている。投資判断を裏づける定量的根拠を求む経営層のみならず、経営層を動かすための具体的な指標を摸索するビジネスパーソンにも、広く本書のご一読を推奨する。
