今や企業活動を行う上でIT活用は当たり前であり、手書きプロセス混じりで業務を進める手法は希有であろう。具体的に利益を上げるECサイトだけでなく、活用度の差こそあれ発注・在庫管理など多くの経済活動にITは欠かせず、活用範囲は経済活動だけでなく、人事や社内の情報共有など、企業維持・運営の“内向き”の領域にも広くおよんでいる。
IT活用が滞る事態が発生すれば「企業活動の停止」と同義であり、企業活動の場は「人の集まる箱」へと陥る。一瞬の“停止”であってもタイミングによっては、機会損失だけでなく、取り返しのつかない事態にもなりえる。そのような事態が発生しないことに越したことはないが、外部からの攻撃や複雑化するシステム等々多くの要因が企業活動の停止の引き金となりえる。そして業務に関わるすべてのメンバーが技術に精通しているわけではないため、現場での復旧はいうまでもなく、原因の特定や現象の報告すらままならないことになりかねない。
本書は、インシデント管理の概念と改善・実施に関する具体的な方策を解説する。インシデントとはISOでは「中断・阻害、損失、緊急事態、危機になり得る、またはそれらを引き起こし得る状況」と定義される。インシデント管理はインシデントの発生に対して復旧(通常業務)までにいかに迅速にこぎ着けるかにある。また、起きてしまった事象に対して分析を実施することで、経験の蓄積を企業にもたらす。IT部門だけが見識を高めるだけでは“企業の耐性”は上がらず、個で構成される組織全体での意識改革と仕組み作りが求められる。本書は5つの段階というわかりやすい構成で、インシデント管理の知見が高まる内容となっている。IT知識のレベルにかかわらず広く社内で共有することで、“強い企業”を構築する契機としてぜひとも活用していただきたい。