自社の商品・サービスを顧客に届けることは、企業活動の根幹である。顧客との関係構築と収益拡大はすべての企業が目指すところであり、多くのリソースが投入されている。顧客体験の重要性が浸透した今日のマーケティング戦略では、テクノロジーとデータを駆使した様々な施策がオンラインを主戦場に展開される。

 

オンラインは数値化・可視化が容易で施策効果を把握できるメリットが存在するが、プロモーションについてはオンラインだけではない。商品・サービスを世間に広く知らせる活動である広告出稿のセオリーは“広く多く”とも言われ、テレビCMなどのオフライン広告を展開する企業も多い。しかし、コンバージョンのように数値で成果を把握することは難しく、担当者の感覚で効果を推し量るケースも多い。機会獲得にはオンライン、オフライン問わず絶えず広範囲に広告を出稿すべきだが、予算にも限度がある。効果を精緻に分析し、適所に予算を投下するかが戦略の要点になるが、オンライン/オフラインを同列に効果検証することはむずかしく、現代のマーケティング活動をさらに複雑にしているのではないだろうか。

 

本書は、マーケティングの課題解消への一手として、マーケティングミックスモデリングツール(MMMツール)を紹介する。MMMはマーケティング施策が成果に与える影響を定量化する統計学的な分析手法としてアメリカで発展し、近年は日本国内でも注目が高まっている。本書では、効果測定がしづらいオフライン広告にスポットを当て、業種の異なる2社の施策(テレビCM、ラジオ広告、チラシ配布など)に対して、MMMツールを活用した効果可視化の事例を採りあげる。分析では外部要因(コロナ禍など)も含めた成果構成、波及効果に至るまで数値化され、結果から導き出された改善アクションについても具体的に展開される。データに基づくデジタル化が加速する現代のビジネスであっても、マーケティングの領域では極めて属人的な要素を含んでいる。特にオフライン広告投資における判断基準として、”知見と経験”だけでなく定量的な根拠も不可欠だ。BIツールが迅速な経営判断を実現させたように、MMMツールがPDCAを精緻で高回転なものへ昇華させるだろう。本書をご一読いただきその実力をぜひとも確認いただきたい。