複数のサービスを併用することが当たり前となった今、業務効率やツールの利便性は飛躍的に向上した。しかしその一方でシステムは複雑・多層化の一途をたどり、ひとたび障害が発生した場合に、その原因を特定することが極めて難しくなる状況ともなっている。障害発生時、日々蓄積し続ける膨大なログの中から根本原因を読み解く困難に、いつまで悩み続ければ良いのだろうか――。
膨大なデータに接している現場のエンジニアやIT運用担当者にとって、“今、本当に重要なシグナル”が見えなくなっている光景は、もはや日常のものだ。システムの複雑化はデータ量の爆発的な増大を呼び込み、オブザーバビリティが“見える化”ではなく“見えすぎてわからない化”してしまっている、と言い換えることもできるだろう。こうした状況を打開する方策として注目したいのが、オブザーバビリティソリューションだ。
本書ではKubernetesノード障害、トランザクションの消失、データベースのボトルネックなど、日々現場で頻発するトラブルを「事件」として捉え、オブザーバビリティソリューションを用いて問題の根本原因を探るプロセスをシャーロック・ホームズの推理世界に見立てることで、解説している。中でも分析手法に大きな力をもたらすことが期待されている生成AIを「シャーロック・ホームズ(=機械学習)」と「ワトソン博士(=生成AI)」に見立てた切り口は実にウィットに富んだ内容で、思わず引きこまれる。パターン発見から複雑な情報・状況の整理、分析内容のアウトプットに至るまでの一連のプロセスで、どのような効果が得られるのかが、わかりやすく整理されているのだ。
トラブルの発生は業務の遅滞のみならず、ステークホルダーや顧客からの信頼や評判を傷つけることにも発展しかねない重大な問題だ。より早く、正確に、冷静に、トラブルと向き合っていくため、またより良い対応策を掴むという観点からも、エンジニア層のみならず、広く総てのビジネスパーソンに本書のご一読をおすすめしたい。