ビジネスを展開する上で顧客との関係は何よりも重要だ。業種業界によって買い替えサイクルや情況と環境などで、顧客との接触頻度に差違はあるものの、リピート購入や契約更新など、継続して顧客に自社を選び続けてもらうことがビジネスの根幹であり、事業継続性に大いに関わる事項だ。苦労して獲得した新規顧客が即離れてしまうことは何としても避けたい事態である。

カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)ツールの市場成長が示すとおり、企業が顧客満足度と顧客ロイヤルティにいかに心を砕いているかが窺い知れる。当然その先にある売上の拡大と収益性の向上を目指してのCRMツール導入だが、読者諸氏の企業では成果のほどはいかがだろうか? 顧客接点を増やし、データ連携とシステム統合を軸としたオムニチャネル戦略に取り組む企業は多いが、成功は一握りの企業だけと評する説もある。顧客を軸とするのは企業姿勢としてゆるぎない正解ではあるが、CRMにおいて見落としがちな点も存在するのではないだろうか? それは多種多様な業務にあたるスタッフの存在だ。顧客の対応・管理するのにスタッフは欠かせない。キャパシティを超えて増やした顧客接点によってスタッフは疲弊し、他関連部門や取引先企業とのリレーションも蹉跌し顧客を放置してしまうなど、顧客満足とは正反対に進むケースも見受けられる。スタッフは人であり、人の集合体が組織であり、法人とはヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源と糧とする生き物ともいえ、顧客と企業の2点に囚われるのは近視眼的と言わざるを得ない。

本書は、デジタルワークフローソリューションを提供する企業のCustomer Workflows導入事例をレポートする。導入社の株式会社テプコシステムズは東京電力グループのシステムの開発・保守等を担う企業だ。同社は新たにユーザー企業同士の協働と共創を目指すコミュニティ型クラウドサービス「TEPcube」(テプキューブ)を展開するが、ユーザー企業(顧客)からの問い合わせや対応に課題があった。顧客満足の向上は重要だがスタッフの負荷をも考慮する観点から、サービスの質の改善に課題の根源を見出し、Customer Workflowsを母体として運用する「お客様向けポータルサイト」を開設した。Customer Workflowsは円滑なサービスフローの確立はもとより、自動化とともに顧客自身がポータルサイト上で稼働確認できる「サービスのセルフ化」をも実現している。スタッフの省力化は生産性の向上に、顧客の疑問・問題の迅速な解決は関係継続に結びつく。重要インフラに携わる企業ならでは大局観とカスタマーサポートツール活用が見事に協働した好事例といえる。顧客との関係継続を摸索する多くの企業人にご一読いただきたい内容となっている。