モノが売れない時代といわれて久しいが、継続した極端な消費の冷え込みも認められず、あらゆる分野でヒット商品があることからも、消費者の購入意欲は低下していない。すべてのモノが売れなくなったわけではなく、本質的には“継続してモノを売るのが難しい時代”になっているのではないだろうか?

特に製造業においては、売れないことは企業の存亡に関わる問題であり、競合との差別化が重要になってくる。以前であれば高い生産能力を維持し大量出荷すれば競合に抜きん出て売れていたが、今日では技術のコモディティ化によって高スペックの維持も難しい。さりとて価格競争にも限界がある。新価値創造や前代未聞の独自技術開発を短周期で回していければいいが、現実的ではなく、モノを主軸においた経営戦略は終焉にあるといえる。湧き起こる第4次産業革命の流れは、製品やサービスにインテリジェンスを組み込むことによって得られる高い顧客体験(CX)を重用し、実現にはICTの最適な運用が欠かせず、いわゆる「モノ売り」から「コト売り」への変革が求められる。

本書は、第4次産業革命で求められる製造業のデジタル化をテーマに具体的なCX向上施策を解説する。CXを中心としたビジネスモデルにシフトする上で、基幹システムの変革も必須となってくる。しかし多くはデータが散在してしまっており、CX向上に向けたインサイトを得ることが難しい。本書では解決への方策として、ERPとCRMの連携を提唱する。データ散在とサイロ化の要因をERPと見定め、広く導入される「SAP ERP」のサポート終了による最新版「SAP S/4HANA」へのマイグレーション(更改)を機に外部連携のためのAPIを実装した「API主導型アーキテクチャ」を目指すものとする。マイグレーションのフェーズを3つに分け、図表を交えた具体的な実現への道程をガイドする内容となっている。製造業はもとより、SAP ERPの通称「2027年問題」に対峙するユーザー企業の諸氏においてはご一読を強くおすすめする。