企業活動を進める上でITが果たす役割は時を経るごとに大きくなってきている。大企業がITへの投資が盛んなことからも明らかなように、競争力の維持向上のみならずポジショニング戦略の要点としても重要視されている。
近年各所で提唱されるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業改革の旗印として拡散され、必要性は事業規模を問わず多くのビジネスパーソンに浸透している。ある意味、大企業が潤沢な予算で展開してきたIT戦略が中小規模にも降りてきたことを示している。事業規模や予算規模に合わせてIT戦略を構築できる時代の到来は、クラウド技術の発展抜きには実現されなかっただろう。IT戦略いかんによっては、誰もがゲームチェンジを起こせる機会を得たといえる。クラウドを軸としてDXを実現させるIT製品・サービス群も百花繚乱の様相にある一方で、なぜかDXが進まない企業も実に多い。
本書は企業DXが進まない現状を分析するとともに、具体的な施策としてSalesforceによるクラウド診断プログラムを紹介する。前述の通り、理由が見つからないほどにDXの機は熟しているが、進まない企業は確かな意志をもって現状を貫いているのか疑問が残る。現状を選び、現時点でのビジネスが順調であったとしても、変化の激しい市場で同等のポジションを維持できる保証はどこにもない。本書では、DXが進まない企業を「DXを迫られている」と表現しておりその実状を、課題意識は有するが業務最適なDX環境を選べない状況と分析している。さらに要因の4項目を「企業のIT現代病」と定義し指摘し、進まないのではなく、進めない状態がDXを妨げているとしている。何事も新たな取り組みを始めるにはある程度のリスクは覚悟するが、企業成長に関わるDXであればなおのこと失敗は避けたいものだ。現状か? チャレンジか? という二元論的思考が企業に停滞を招いており、現代のビジネスにおける停滞は下降を意味する。本書で展開される診断プログラムでは、企業の課題ポイントを明確にすることで最適なIT環境が提示される。チャレンジへのリスクを回避低減するだけでなく、停滞から抜け出す契機ともなり得え、新たな選択肢とDX推進の道を拓く効果が期待できる。DXの推進に課題を抱える企業のみならず、全企業人にご一読をおすすめできる内容となっている。