現代のビジネスにおいて、すべての企業は変革を強く求められている。働き方改革、デジタルトランスフォーメーション、インダストリー4.0などが世界各所で提唱され、それぞれの守備範囲・論点は異なるが、根幹は企業における“改革”“変革”のいずれかの2文字に集約されるだろう。

これほどまでに変革が重視される背景には、市場の激化や各種のコモディティ化などによって競争力の維持が難しくなったこともあるが、企業組織がただ単にビジネスを展開する場から、顧客、社員、社会、さらに未来に対してもより重い責任を果たすべき存在へとシフトした表れではないだろうか? またデジタルテクノロジーの進化が人々の生活や社会に与えた新たな価値は未だ成長を続けており、当然のごとくビジネスへの活用も重視される。各業界のトップランナー企業は変革とテクノロジー活用を円滑に融合させることで躍進を続けており、変革とテクノロジー活用の両輪をもって今日の企業価値が計られるようにも感じられる。変化著しい昨今の世界情勢を鑑みれば、前進を好み停滞を嫌うビジネスの根本特性は顕著なものになっており、変革はより迅速に多角的に推進する必要がある。多くの企業でテクノロジーを主軸とした施策が活発に推進されているが、読者諸氏の所属する企業において肌感覚としての変革は実感されているだろうか?

本書は、Salesforce社を変革してきたステップについて、同社CIO自らが解説する。読者諸氏もご承知の通りSalesforceは企業のデジタル変革を推進させるツールとして市場からの信頼も厚く、トップランナー企業として異論を挟む余地はないだろう。アパートの小さな部屋でサーバーをクローゼットの中で稼働させて第一歩を踏み出し、21年を経て現在に至る。時代性などの外的因子だけで自然と現ポジションを築いたわけもなく、同社自身がSalesforce製品を大規模に用いて運用し、徹底活用することで変革してきた結果といえる。前出の通り、企業の変革には様々な要因が絡み合いテクノロジーの導入だけ果たせるほど単純ではなく、いかなる企業でも改善が100%実現できる虎の巻は存在しない。本書では、本書では、同社の実践してきた経験にもとづき、多くの企業にも適応する変革の原則をSalesforce ITチームの実例を交え10のステップで紹介する。言及される範囲は広く、人員、サイロ化、インフラ、戦略、視点、ビジョンと価値観などテクノロジーや特定部門に偏ること無く、イノベーションの推進、生産性の向上、企業文化の改善といった企業を形作るすべての要素について展開する内容となっている。トップランナー企業が備える素養を知識として得るにとどまらず、自社の現状を整理・改善する上でも活用が期待される。本書の巻末は「デジタル変革は一夜にして成らず」と締めくくられているとおり、Salesforceの導入・未導入にかかわらずすべての企業人にご一読を強くおすすめする。