現代のビジネスでは多くの情報が飛び交い、企業とユーザー間でやり取りされている。ユーザーはコンテンツにアクセスして情報をプルし、企業はときにプッシュしつつユーザーが望むコンテンツの安全で快適な提供に尽力する。ITが浸透した社会においては情報も“蛇口をひねれば水が出る”生活インフラ同様ユーザーは求めるものがストレスなく、あたりまえに取得できることが前提とされる。
近年、企業のIT戦略の主軸はユーザーエクスペリエンス(顧客体験)にシフトしている。ユーザーの要望に応え、さらにロイヤリティ向上を目的として、企業のコンテンツは精緻かつリッチなものへと変容している。一方、企業インフラにも変化が起こり、最大のトピックはクラウド活用の常態化が挙げられる。多くの企業がマルチクラウド戦略を展開するなか、複雑化、コストバランス、パフォーマンス、安全性などが常に課題となってきている。今日のビジネスに競争力を付帯させるには、企業の内向きのインフラ課題解消に加え、冗長性を有するより高速で一貫性のあるユーザーエクスペリエンスを提供する外向きのインフラの両輪が伴ってこそ成されるのではないだろうか。
本書は、マルチCDN(コンテンツデリバリネットワーク)について技術上またはビジネス上の決定権を持つ300人以上にアンケート調査を実施し、市場分析するとともに改めてマルチCDNの実際のメリットを探求する。企業のコンテンツはユーザーが享受できて初めてビジネスへと昇華され、外向きな施策としてCDNが効力を発揮する。しかしコンテンツ全体を単一のプロバイダーに依存するシングルCDNでは現代のユーザーが求む“あたりまえ”を提供するのは困難になってきた。そこでトラフィックが複数のCDNに分散されるマルチCDNアーキテクチャが有効となってくるが、有効性を認められつつもCDNのデファクトスタンダートには至ってはいない。本書では、企業のマルチCDNの活用のみならず「採用しない理由」についても、数値とともに企業心理を深く分析する。企業インフラのさらなる複雑化と課題拡大は極めて避けたい類だがイメージだけで断じては競争力は発展せず、本質を見極めてこそビジネスのアドバンテージが得られる。マルチCDNについて本書をご一読いただき、ビジネス真価をぜひともご判断いただきたい。