近年、デジタル変革の潮流から業務改善を推進すべくDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業は多い。既存の業務プロセスを見直し、デジタル化を進めることをDXと捉える傾向もある。
しかしアナログからデジタルへのシフトであるならば単に“IT化”“デジタル化”と言うべきだろう。あえてDXを標榜する理由とは、業務プロセスに介在する既存システムにおける老朽化、陳腐化、サイロ化など業務効率と企業成長を阻害する要因を排除・改善していくことにある。また、業務を停止・停滞させるインシデントについても十分な管理体制が必要となる。インシデントについては兆候を予測して、事前に予防措置を採るプロアクティブなアプローチが注目される。組織の向上心に起因する持続的改善、インシデント管理の両翼が備わらなければ企業のDXは実現しないとも思われる。
本書は、自動車保険加入者に向けたサービスデスクのITサービスマネジメントツール導入事例を紹介する。同サービスは生命にかかわり緊急性が求められる場面も多く、24時間365日にわたって迅速さと的確さが求められる。言わば業務のすべてがインシデント管理だ。複雑な手配が伴う加入者への対応はExcelで管理されたが「Excelでは間に合わない」と判断し、インシデント管理をITサービスマネジメントツール「ManageEngine ServiceDesk Plus」にリプレースした。導入10年を経過し、サービス品質が高く評価されるだけでなく、新型コロナ感染対策におけるリモートワークにもスムーズに移行される導入効果を得ている。新型コロナはあらゆる企業組織が直面するインシデントであり、予見は不可能だったことからプロアクティブなアプローチは成立しない。本書は、顧客を起点とする業務改善意識とソリューションによって実現されたDXの好事例といえるだろう。持続的改善は、不可避なインシデントにもリアクティブに対応できる企業組織の強さを育む。業界業種を問わず学ぶところの多い資料となっている。