企業体は人と業務の連携が幾重にも重なることで稼働する。人・業務というように明確に弁別するのはむずかしく、人が業務を行い業務で人が躍動しするように、双方の融合がなければならず、現代ではITが人と業務の仲立ちとなって円滑さを創出している。
しかし、事業規模やビジネス規模が大きくなるほどに人と業務の連携はさらに複雑になり、かつて有効だったITシステムにいま現在の円滑さを求めても好転せず、昨今の企業に求められる「デジタル化」はこうした背景を含んでいる。いざデジタル化に取り組むとなると全社的で大規模なものを想定しがちな面もあり、具体的に何から着手すればよいのか迷い、結果として現状路線を踏襲していまうケースが大企業に散見される。デジタル化はあくまで手段であり、課題の解決・解消と改善が目的だ。全社規模で顕在する課題ともなればそれは経営の危機でありデジタル化の範疇を越えている。デジタル化を人単位・業務単位での課題に注目させ、全社に円滑さを満たしていくのが最も現実的といえるだろう。
本書「大企業の業務デジタル化成功事例集」は、名だたる大企業14社の成功事例を収録する。ノーコード・ローコード開発プラットフォーム「SmartDB」を軸に業務にフォーカスして各社の「導入前の課題・背景」と「導入後の効果・メリット」を簡潔に取りまとめている。開発と聞くと自社の業務との連想がつかない読者がいらっしゃるかもしれないが、本書では「ワークフロー」「Webデータベース」「モバイル」の3機能を柱に、あらゆる業務における課題解決の実例を展開する。一例を挙げれば「紙運用」からの脱却や「ナレッジ共有」など多くの部門・組織が抱える課題を収録する。同じ課題項目であっても個々の企業事情によって異なる背景、さらには効果の範囲にも違いが生じている点は非常に興味深い。自社のデジタル化を推進する際に、まずは課題の抽出が起点となるが、非効率に慣れ過ぎてしまっていては課題も見出しにくい。多くの実例を有する本書は潜在する自社課題の気づきが得られる内容となっており、目的に即したデジタル化の道を拓いていく。経営層含め業務に携わるビジネスパーソンに広くご一読を推奨する。