いま日本のビジネス界において、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」ほど注目を集めている言葉はない。字面からは「デジタルの力を使った変革」といった意味が想起されるが、とはいえ受け止める側の立場や背景によって、認識に微妙なズレが生じているのもまた確かだろう。それゆえ、DXは自分たちに関係ある、いや関係ないといった、単純な線引きに終始してはいまいか。

 

本書では、国内大手化学メーカーのDX担当者らが日々の業務で得た知見をもとに、「企業にとってなぜDXが重要なのか」を徹底的に解説している。とかく変革論となると、過去の業務を一切捨てて全く新たなビジネスの立ち上げを呼び掛けたりする例が目立つ。しかし実務家である以上、現在の業務を大事にしながら、その上でどのように変革を達成すべきかが重要だというのが著者らの主張だ。

 

DXを理解する上でやはり重要なのは事例である。国際的に著名なECサイトや配車サービスのどの部分が革新的であったのか。そしてDX先進例の多くに通底する「データ駆動型」ビジネスモデルの重要性などについて、本書は多くのページを割いている。もちろん、DXの定義、DXを構成する要素技術などについても詳しい。業務でDXを推進する立場の方はもちろん、教養としてひとまずDXを知っておきたいという方にもオススメの1冊である。