新型コロナウイルスの流行以降、あらゆる物事のありかたは世界中で変化した。そして業種によって差違はあれども、企業ビジネスにも強く影響が出ている。ビジネストレンドなどと異なり、一定の法則も方向性も見出しがたく、未知の変化への対応を余儀なくされている。

 

新型コロナウイルスにもたらされるネガティブ要因ばかりがクローズアップされる反面、テレワークに代表されるようにデジタル化は一気に進んだように思われる。膨大な変化は企業内業務ばかりか顧客にも広く現れ、購買や問い合わせもデジタルへとシフトした。以前から各所で推奨されたDX(デジタルトランスフォーメーション)が図らずも大きく前進したといえる。今日ではデジタル対応なくしてはビジネスは成立すら難しいが、企業が存在する本分は維持ではなくビジネスの前進と強化にあるべきだ。現在多くの企業が基幹システムを有しており、中でもERPは企業経営において重要な役割を担っている。ERPを含む基幹システムの活用いかんが成果を伴うDXを実現し、競争地位を確立していくカギとなるのではないだろうか。

 

本書では現在の状況を分析し、ニューノーマル時代に対応する基幹システムのありかたを提言する。以前であれば企業は安定した経営環境下で利益最大化に邁進し、ベストプラクティスに基づき施策を展開していく「オーディナリー・ケイパビリティ」で競い、競争地位を確保してきた。その中でERPは売上を始めとするあらゆる情報が集約することで迅速な経営判断に貢献している。しかし激変する昨今の状況は安定した経営環境で、とはいえず、定量的で確定的な情報に特化したERPでは対応しきれない潜在する課題を本書は指摘する。時代に即し、不安定な環境下で獲得すべき企業能力「ダイナミック・ケイパビリティ」を念頭に置き、ERPを「左脳」、CRM(Salesforce)を「右脳」と定義し、連携への重要性と実現への方策をガイドする。本書は主に製造業を対象として事例とともに展開される内容となっているが、変化をも飲み込み前進を目指すビジネスパーソンにも道を示す力強い内容となっている。ご一読を広くおすすめする。