90年代に急速に広まったITの普及はビジネスに大きな変革をもたらした。情報関連や金融サービスなどの一部業種の特定用途に限定されていたPCは、業種業界問わず所属企業から一人一台以上支給されるのがあたりまえとなっている。業務システムへのアクセスから、顧客や社内とのコミュニケーション等に至るまでオフィス業務になくてはならない存在といえる。

さらに、近年では企業のデータ活用が進み、PCを介して飛び交うデータ自体が大きな価値を持っている。ビジネスにおいてデータの利用価値が高まるほどに、情報セキュリティへの重要性も高まり、IT管理部門の業務責任は重くなる一方だ。社内の通信インフラを整備し、外部からの不正なアクセスを遮断する防御壁を巡らすだけでなく、エンドポイントである社員のユーザーPC本体のOSバージョンを最新に保ち、セキュリティツールを配すなど微細に渡る努力を重ねることで、企業の安心と安全を担保してきた。しかし昨今の新型コロナウイルスの感染拡大から需要が高まったテレワークにおいては、ユーザーPCは社員の自宅にあり、社員が契約する自宅の通信インフラを介して業務がなされている。今や社員にとってはPCが職場と同義であると言えるだろう。さらにオンラインでのミーティングなどの新たな要素が加わることで、それぞれの社員の通信環境に合わせた技術サポートの必要性も加わっている。テレワーク環境の確立だけでも苦慮するIT部門の事例が散見されるが、日々の運用に関しても多項に渡る課題を抱えていることが予測される。

本書は、国内企業の社内PC担当者を対象に2021年3月実施された最新アンケート調査に基づき、傾向と課題を分析する。顕在化される6つのテーマでは、業務環境からヘルプデスク・障害対応・障害復旧など幅広く取り上げられるが、総じて掛かる業務負荷に対しての人員不足が顕著に示される。また、興味深いことに主流となったWindows 10固有のFeature Update(機能更新プログラム)の運用についても課題性を明らかにしている。ビジュアル化された調査データ群とともに、巻末には解決策が提言され、具体的なサービスについても併記される明瞭な内容となっている。テレワークにおけるPCの不調は生産性の低下を招き、統一性のない通信環境であってもセキュリティレベルの低下はガバナンスの観点からも許されるはずはない。今現在、企業が抱えるPC運用管理の実状を映す貴重な一冊となっており、IT部門はもとより、経営層にも自社の現状把握の契機としてご一読をおすすめする。