昨今、企業組織や業務に関連して“改革”という言葉が重視されている。現状を良しとせず、国際的にも企業がより高い競争力を発揮できる素地を常に育むべき、といった未来を志向する前向きさと危機感によって湧き起こったムーブメントと思われる。

 

“改革”には生産性・業務効率の向上が要点となり、テクノロジーの活用が前提となる。端的に表現するならば、時間を浪費することなく省力化で業務クオリティを上げる取り組みといえるだろう。業務課題に対して施策を実施していくのが常套手段となるが、顕在化した課題に特化して取り組むのは修繕に近く、“改革”には到達しない。むしろ業務に潜在する課題をも対象とする施策が企業改革を前進させるだろう。慣習化は停滞の温床になりやすく、慣れし親しんだ業務フロー・手順に対し、“これで良いのか?”と漠然と疑問を持つことから“改革”は推進される。

 

本書は大手総合商社である三菱商事の翻訳ツール導入事例を紹介する。同社は貿易を祖業とする企業であり、海外現地法人も有する国際企業のため、英語の運用能力が必須となり社内にはバイリンガルやトリリンガルの社員も多数在籍している。読者諸氏含め第三者視点からは翻訳は必要ないと思われるだろう。現に同社へのインタビュー形式で展開される本書では、翻訳についてITサービス部の担当者は「特に課題はありませんでした」と答えている。しかし、ここでの「課題」とは顕在化したものを意味しており、全社をあげて日常業務の生産性向上を図る方針を打ち出す同社では、「Mirai Translator®」を業務生産性向上のためのツールとして採用した。いかに多言語に精通している人材であっても母語以外では多くの時間を消費し、生産性の阻害要因となる。また、使い勝手や翻訳精度のみならず選定の評価軸にはセキュリティも含まれ、機密文書を翻訳した場合の翻訳データフローやサーバの所在地についても言及される。変化の激しい国際社会と対峙する同社の視座は明らかに“改革”にある。翻訳ツールを業務で利用するビジネスパーソンはもとより、企業改革の好事例としても是非ともご一読いただきたい内容となっている。