ネットで商品を選び購入する行為は、完全に日常的なものとなっている。オークションのように売り手がユーザーであるものを除けば、買い手の選択肢はモール、商社、メーカーなどECサイトの形態も増え、越境ECを利用するユーザーも特別な存在ではなくなってきている。

 

既製品を“できるだけ安く”という一辺倒な消費者のマインドにも変化が現れ、有形無形に関わらずカスタマイズやオーダー生産なども含む自分だけの物を、納得してネット上で入手している。本来多様性を備えるユーザーの嗜好がネット上にも拡大されたと言え、自分を理解し、丁重に扱ってくれるお気に入りのリアル店舗がそうであるように、ネットにもおいても“どのECサイト”を利用するかという明確な意志を、ユーザーは持っている。売り手側にとってユーザーが増えると言うことは、より多くの個性と対峙することを意味し、初回の来訪よりも2回目、3回目と機会を重ねるごとに互いの理解を深め、やがて自社のお得意様・ファンへと高めていかなければならない。故に顧客体験が重視されるのも必然の流れと言えるだろう。

 

消費者一人ひとりの嗜好により深く応じるには、商品を生み出す大元であるメーカーが優位性を発揮しやすい。従来から問屋や小売店を介さないD2C(Direct to Customer=消費者直接取引)ビジネスはメーカーにもメリットが多く発展していた。しかし単に商品を並べるだけのECサイトならば、今日の潮流からすでに逸脱していると言えるだろう。本書は、D2Cビジネスの変遷をひもとき、今日的な成功要素を分析し、ECサイトを単なる陳列棚からブランドコンセプトの表現の場とする重要性を訴える。実現には相互コミュニケーションに支えるシステムの迅速かつ継続的な改善が必須となる。拡張性・自由度があってしかるべきであり、本書では具体的方策としてヘッドレスの基本概念からその有効性を丁寧に解説する。バックヤードが売り場の自由度を阻害してはならず、ヘッドレスがブランド戦略の要所としての機能をより充実させるだろう。ECサイトに携わるビジネスパーソンに本書のご一読をおすすめする。