企業とは、全体や部門によって個人では成し得ない力を発揮する集団といえる。とりわけ製造業では、部門を横断する動きも多く、連携と実行が強く問われるシーンも多い。日々の業務の核となる生産対応に追われる中で、研修の受講、アンケート回答、ルールの周知確認、各種申請など、現場業務以外の社内依頼も数多く指示される。
しかし、依頼はメールで送られてくる手法が採られ、1人1台のPC環境ではない製造現場では、依頼に対するヌケ・漏れ・遅延が発生しやすい。メールの特性上、重要度や優先度の判断は受信者に委ねられ、期日までに実行率を高めるには、依頼者のみならず部門管理者による度重なる催促が欠かせない。一見すると“あたりまえ”のプロセスと感じる読者諸氏もおられると思うが、ガバナンスとコンプライアンスが重要視される今日の企業組織で実行されるべき社内依頼数は膨大で、依頼者と依頼実行者の双方はストレスを抱えており、生産性の観点からも好ましくはない。人の“意識”や“頑張り”に頼った運用は限界をむかえ、もはや“前時代的”といえるだろう。
本書「『見えない』『気付かない』社内依頼を可視化し期日までの実施を確実に」は、製造現場ならでは事情を整理すると共に、従業員1万人を超える製造業がどのように依頼管理のやり方を変え、現場の負担を減らしながら確実な対応を実現したのかをレポートする。課題の根源は運用にあり、本書では現場の担当者が“今、自分が対応すべき依頼を一目で把握できる”仕組みや、期限が近いものから自然に行動できる改善策を紹介する。
さらに、職長や班長、管理者の立場から見た改善効果にも踏み込みこんでおり、確認・催促にかかっていた時間が大幅に減ったプロセスを具体的に示す。導入当初の戸惑いや、現場に定着させるために行った工夫、少しずつ利用が広がっていった経緯についても触れ、現場に根づくまでのリアルな流れを追体験できる構成となっている。本書は、やるべき依頼を確実に終わらせる企業組織をつくるための、現実的で再現性の高いヒントをまとめた一冊であり、製造業関係者はもとよりDXや業務改革に取り組むビジネスパーソンにも、ご一読を強くおすすめする。
