ビジネスには常に顧客が存在し、企業によっては法人と個人などの対象は異なるが、顧客なくして“商売”は成立しない。いかに時代が変化しようとも「選び、選ばれる」顧客と企業の関係は不変といえる。ITテクノロジーの一般化により顧客接触の機会を増やし、情報ソース量の増加によって顧客の選択肢を増やし、嗜好の多様性を顕在化させている。
もともと商売は“対面”を常としていた。対峙した顧客の反応や購入者からのフィードバックをもって商品ラインアップやサービスに反映していたが、企業の大規模化による大量生産と大量消費へと変容し、提供側の企業の論理ばかりが強調された時代がしばし続いた。近年では、企業の戦略には市場欲求に対応すべく“マーケティング”を重視する方策も多数打ち出されているが、属性情報から作られたユーザー像、いわゆる「ペルソナ」を当てはめるだけでは、多様性を持つ顧客の個性にはリーチしきれない課題もあった。顧客一人ひとりを理解し企業にきめ細やかな対応を実現する方策として、今一番注目されるのが「顧客体験」(Customer Experience、以下:CX)だ。
本書は小売・アパレル業におけるCXの向上事例を収録する。ユーザーアクションの分析に始まり、ユーザーのフェーズに合わせたきめ細やかな対応とプッシュによって、顧客ロイヤリティを昇華させる。CXは商売の根本である“対面”に「立ち帰らせる」概念ともいえる。小売・アパレル業に限らず、きめ細やかに顧客関係性を築きたい企業は本書のご一読をお勧めする。CXの基本から学べる内容となっているので、企業論理優先はもはや通用しないということを今一度考える契機としてもご活用いただきたい。