近年、企業におけるBCP(事業継続計画)の重要性が、各所で声高に訴求されてきた。そして今、業種業界を問わずBCPに注目する企業が増えている。残念なことに「緊急事態」が勃発するたびに需要が高まるという消費パターンが認められる。BCPにおける“継続性”は社会的な緊急事態に限定して効力を発揮するということではなく、日常業務に頻発しうる“障壁の大小”を問わずビジネスを継続させることにあるのではないだろうか?
とくにITインフラの重要度が高まっている潮流において、運用の不具合は企業活動にネガティブにしか作用しない。しかし、一見スムーズに運用されているようであっても、何らかの“障壁”は数多く潜在しており、人的な運用負荷や復旧までのダウンタイムなど「仕方ない」と言った情緒でなんとなく組織全体で受容してしまうこともある。これらにも“障壁”意識をもって施策する姿勢が「緊急事態」におけるBCPに繋がり、企業力を高めることに繋がる。潜在的な“障壁”を顕在化して対処するにあたり、とくに注意していただきたいのは“障壁”だけを注視しないことである。あくまで視座を高く、大局を考慮して課題を見出すことがBCPの極意と思われる。そのためにも多くの情報に触れる必要があり、ときには異業種・異業界での取り組みが視野を広げてくれるだろう。
本書は、ITインフラ整備・拡充を推進する「中央大学」における運用改善とデータマネジメントについてレポートする。同学は各種研究室で利用されるサーバ運営だけでなく、約5000人の学生が利用する「eラーニング/LMS(学習管理システム)」も積極的に採用している。ひとたびシステムの安定性が失われれば「学びの機会喪失」に直結してしまうため、大学の役割を遂行するためにクラウド導入も進んでいる。信頼性・安定性のさらなる向上や障害復旧の迅速化を図るための基盤刷新を進めるなかで、オンプレミス/クラウドと入り組み複雑化したITインフラのバックアップなど各種データ・マネジメント課題を抱えていたが、包括的なデータマネジメントを求め、オンプレミスとOffice 365に至るまで一元的なデータマネジメントを実現し、安定性だけでなく運用手順の標準化も獲得しており、同大学の掲げる「行動する知性」を具現化している好事例といえる。恐らく読者諸氏の多くは企業等に所属するビジネスマンと思われるが、同大学の取り組みは5000人規模のIT基盤運用であり、ビジネスの現場において十二分に参考になるだけなく、視野を広げる「知性」となりえる内容となっている。