ビジネスは常に市場や社会情勢に翻弄され続けている。成長性が高いマーケットや、需要が拡大する地域などに集中し注力するのは企業経営の定石ではあるが、物事を大枠で捉えるマクロ的な発想と言えなくもない。

 

社会も市場も人によって形成された集合体であり、人はそれぞれの個性を有している。TV視聴率調査を起源としたF1層やM1層といった年代分類はあくまで大まかな傾向を示すに留まり、必ずしも同じ層の顧客全員が同じものを好むわけもなく、自社の顧客の実態を示しているわけでもない。そのため近年は顧客一人ひとりに企業が寄り添うパーソナライズドマーケティングが主流となってきている。リアルに対峙する顧客を重視する商売の原点に立ち返るような現象といえ、以前は顧客と対面する店員の経験や力量に委ねられたが、地域や時間をも超越するチャネルの拡大した今日では、データとテクノロジーを武器とするマーケターの手腕に掛かっている。

 

本書は、マーケターが顧客データを最大限に活用し、さらにマーケティングテクノロジーへの投資を最適化するためのポイントを紹介する。市場に提供されるマーケティングに関するソリューションは8,000にものぼり、平均的なマーケティング組織が導入するソリューションは24以上にものぼると本書は指摘する。また、企業内で活用されるマーケティングテクノロジーは顧客関係管理(CRM)、データ管理プラットフォーム(DMP)、マーケティングオートメーション(MA)など多数にわたり、運用される部署も異なっている。データの重複や抜けなども生じやすく、顧客一人ひとりの実体を捉えたカスタマイズを展開するにはデータ統合のためのデータクレンジング作業などを要す。本書では、正確で一貫性のある顧客プロファイルの重要性を説き、カスタマーデータープラットフォーム(CDP)の有用性を提言するとともにCDPの選定ポイントや成功事例についても言及する内容となっている。今を生きるマーケターは手腕を発揮する以前に武器であるテクノロジーについても慧眼を持たねばならない。本書のご一読を強くおすすめする。