データ活用が企業変革の礎となり競争力の源泉であることは、現代を生きるビジネスパーソンの多くが実感しているのではないだろうか。デジタルテクノロジーへの取り組みはもちろんのこと、不透明な未来においてもその方向性が企業組織全体を左右していくだろう。
近年、AIや機械学習の取り組みが多くの企業で実践されはじめてきた。読者諸氏の企業でもその活用が進行しているかもしれないが、一部の業務であったり局所的な解析などに留まっているように思われる。導入目的の大義は業績向上となるが、企業の業務全体と比較すればまだまだメリットはごく僅かといえる。AIや機械学習とビジネスの相性が悪いわけではなく、むしろAIは多くの可能性を持っている。今現在は、AIの潜在能力を引き出すには土壌が成熟していないのかもしれない。しかし一部の大企業ではAI開発に注力している。彼等はどのような世界観でビジネスとAIの関わりを見据えるのか? 未来のビジネスを繙くヒントがここにあるのではないだろうか。
本書「2025年に向けたCIOのビジョン:AIとBIの連携」は、テクノロジーとビジネスの世界的権威であるマサチューセッツ工科大学(MIT)が所有するメディア企業「MITテクノロジーレビュー」による調査レポートだ。所属企業において技術部門のシニアリーダーの役割を担う(CIOなど)役職者を対象に18か国600名に渡る調査が実施された。調査対象の一部の企業では「2025年までにAIや機械学習が企業のほぼ全ての業務の土台となっている状態」を目指しているとされることから、これを本書ではAIドリブンと定義し、積極的なフロントランナー企業をAIリーダーと呼ぶ。調査では大半の企業が2022年現在の各基幹業務において「AIが重要な役割を担っている」割合が少ないことを示し、AIリーダーにおいても目標達成に向けて困難な課題を抱えている状況を示す。本書ではさらにAIリーダーの10名に徹底したディスカッションを展開し、AIドリブンにおける現在と未来に向けた洞察を引き出している。客観性を持つ信頼できる実態調査であり、動き始めたAIドリブンに特化した重要な内容となっており、ビジネスとデジタルテクノロジーに敏感なビジネスパーソンの琴線に触れる確かな一冊といえるだろう。