ビジネスにおけるデジタルテクノロジーの重要性は年々高まっているうえ、進歩はきわめて速い。バージョンアップだけでなく、新たな規格や新価値を提供する概念すらも登場する。トレンドをキャッチアップし、いかに自社に取り入れていくか考察することは現代のビジネスを勝ち抜く上でも重要といえる。

 

しかしすべての企業が最新テクノロジーを即導入できるわけではない。今日、業種を問わず一人一台以上があたりまえとなったパソコンでも、当初は一部の大企業が積極導入することでアーリーアダプターとなって、追従する企業を創出し、市場を活性化させてきた。市場活性化による低価格化は普及を広げる一因でもあるが、金額の課題以前に中小企業はデジタル分野への投資に対して慎重すぎる傾向が強いように感じられる。慎重に徹しては企業競争力を失う可能性もあるが、要因は新たなテクノロジーの導入が企業利益に還元できるのか? つまりは、使いこなせるか? という不安要素にあるように思われる。昨今のテクノロジーに目を向ければ、AIの活用範囲は拡がっており、電力需要予測をはじめとする重要インフラなど人々の生活に恩恵を与え、ビジネスではデータサイエンスや機械学習などを高度化・効率化させており、一部の大企業や専門性の高い分野で展開されているイメージが強いように思われる。事業規模を問わず、生産性、効率化、自動化等が重視される中で将来を見据えた企業力強化を鑑みれば、AIの造詣を深め、日々の業務にどのように関わるかを考察すべき時期に差し掛かっているのではないだろうか。

 

本書は「ExcelからAIにたどり着く必然」と題し、ビジネスにおけるAI活用を実例を交え解説する。本書では、従業員300名以下の中小企業を対象にAIに関する意識調査を行い、コスト、期待、導入意志の3項目から「使うのが高難度で、高額な技術」とのイメージの根強さを指摘する。また、Salesforce社の提供するEinsteinを導入した4社のAI活用成功事例を展開する。紙幅を多く割く1社の事例では、創業時従業員6名から時系列でのツール活用と効率化の返還を深掘り、Salesforce導入、マーケティングオートメーション導入、ビジネスインテリジェンス導入、Einstein導入(AI活用)それぞれの時期における「見込み客発掘の工数」「従業員一人当たりの生産性」「見込み(問い合わせ)からの訪問した件数」の3軸と課題を立体的に可視化し簡潔に伝えている。さらに随所に同社のメンバーのコメントをちりばめ、読者諸氏が疑問を懐くであろう部分はFAQ形式で答えられ、ビジネスにおけるAI活用の体現者の生の声を知り得る内容となっている。大企業における成功事例は巷に多々存在するが、AIに特化し、中小企業にフォーカスした本書は貴重な一冊といえるだろう。察するに、AIは具体的な導入をも視野に入れるべきビジネスサポーターになっていると思われる。中小企業にも早すぎる事はない。本書をぜひともご一読いただき、未来に繋がる企業力強化にお役立ていただきたい。