産業革命が機械による生産量の向上であったように、 今日提唱される企業 DX は、 デジタルによる企業の生産性の向上が必要とされている。産業革命では機械工学の技術発展と動力エネルギーの確保が課題であったが、企業DXはあまた存在するデジタルテクノロジーを企業の業務に如何にフィットさせるかがポイントになると思われる。 

 

生産性向上の効果は“働き方”と言われる労務領域に効果を発揮するだけでなく、業務に忙殺されない余裕によって新たな考察と発展を促し、中長期的には企業競争力の向上が期待される。多くの企業が DX を目し、推進させようとするが、 組織としてのデジタルテクノロジーへの知見の深度や、デジタル人財の有無によって困難さは異なる。特に DX に欠かせない業務改善に貢献するアプリケーション開発の局面では、企業組織としての“デジタルカ"の多寡が露骨に反映されるケースが散見される。業種業界、事業規模を問わず、デジタルによる課題解決と業務改善は、企業の未来を拓くカギになるのは間違いないだろう。 

 

本書「企業のDXを加速させる『ローコード開発』」 は、障壁となる企業の“デジタルカ”の格差解消に一石を投じる内容となっている。 近年注目を集めるローコード開発は、 開発ベンダーやIT部門に頼らず、業務に直面するユーザー自身がアプリを作り活用できる利点がある。 しかし数多くのローコード開発プラットフォーム群から、組織との親和性の高いツールを 採用するにも相応の知識と時間が必要とされ、目的である業務改善・生産性向上自体が遠のいていく可能性もある。 本書では企業が活用しやすい開発プラットフォームとして Microsoft 365 ライセンスに含まれる Microsoft Power Platform を推奨する。業務部門のユーザーが使い慣れている Microsoft 365の延長線上に位置する Power Platform は、自身の手で業務を自動化するアプリケーション開発へのシフトも容易で、混迷する開発プラットフォーム選びも回避できる。初期導入編と位置づける本書では、 Power Platform のライセンスから業務の整理についても丁寧な解説がなされ、実際に Power Platform を活用した業務改善事例も紹介されているので、予備知識なくアプリ開発内製化への第一歩に繋がる一冊となっている。 IT リーダーはもとより、業務部門のユーザーにもご一読をおすすめする。