デジタルテクノロジーはビジネスの可能性をどんどん開拓し、あらゆる業界に新たな進化と競争の機会を与えた。黎明期はスクラッチ開発を前提とする難しさや莫大な投資を要するがために、重要インフラや一部の先進企業のみがデジタルの恩恵を享受していた。だが現在では、PC環境の整備や通信環境の進化などと相まって技術進化はますます進み、事業規模を問わずビジネス領域への門戸は広いものとなっている。

 

各所で提唱される企業DXもデジタルとビジネスを強まる結びつきを象徴しており、企業改革の号令と共に“目指すべき”方向であった。近年のコロナ禍をからDX化は“目指すべき”から“実現すべき”へと遷移し、テレワークを筆頭に企業活動の維持継続には待ったなしに必須経営科目となっている。技術的には実現可能であっても組織事情を理由に遅々として進まなかったDX化は、数年分の時間を飛び越えて一気に進んだと読者諸氏も感じているのではないだろうか。実現への過程には、重大な経営判断に始まり、IT部門、管理部門、エンドユーザーに至るまで全社全域の尽力があり、技術面ではクラウドサービス市場の充実が大きな助けとなっている。

 

しかし急速過ぎるが故にルール・管理の課題、セキュリティの不安がないわけではない。今日はコロナ禍初期ほどの混乱はないものの、企業活動における課題と不安を整理・解消していく時期に差し掛かっていると思われる。本書は、ITアナリスト伊藤清氏のインタビューを主軸に企業経営におけるIT資産管理のポイントを解説する。本書では実態調査から、企業のクラウド導入率が76.5%に対し、社員が利用しているクラウド(SaaS)を完全に把握する企業は19.4%に留まる事実を掲げ、この状況を伊藤氏は「目隠しで経営をしているのと同じ状況」と指摘する。取り組むべき対応としてIT資産管理(ITAM)の重要性を背景とともに多角的に解説し、事業規模を問わずITAMを実行できる方策を具体的に示していく。混同されがちな「IT管理」と「IT資産管理」の違いに始まり、わかりやすく丁寧な内容となっている。