近年、中小企業の経営は、かつてないほどに複雑な判断を迫られている。ビジネスをとりまく外面は、為替や国際政治、気候変動までも変転きわまりなく、加えてAIをはじめとするテクノロジーも日々進化している。大企業との競争環境も激しさを増す一方で、自社が使えるリソースには限りがある。企業力強化・改革の必然性を認めつつ、目前の業務に向き合い、漠然とした焦りを募らながら日々意思決定を要求される。

 

状況を俯瞰すると、現実の中小企業が直面する課題には共通点がある。売上の拡大と新規顧客の獲得は常に優先するテーマだが、それだけに集中していれば成長できる時代はすでに終わった。昨今は“優先テーマ”に頭を悩ませながら、テクノロジーの選定やデータの活用に策を講じるという、両利きの対応が求められる。しかし、浅慮にツールを増やせば管理は煩雑になり、逆にテクノロジー投資を絞れば競合に遅れをとるリスクも生じる。さらに、AIの急速な進化がこの構図をいっそう複雑にしており、“セキュリティへの対応”“限られた人材での業務遂行”など、企業組織内で山積する課題の優先順位そのものの判断が、成長と停滞を分ける時代に入っている。

 

本書は、セールスフォースによる世界26か国3,350人のリーダーを対象に行った実態調査に基づきとりまとめられている。収録される多頂のレポートから一部抜粋すると、業績好調な企業が最も重視する優先事項は「新規顧客の獲得」ではなく「顧客体験の向上」であること。AIを導入した企業の9割が業務効率の向上を実感し、85%が投資回収を実感しているという事実を示す。また、業界別・国別でのデータも付随されており、本レポートでは、テクノロジー投資の優先順位、AI活用の実態と成果、好調企業に共通するデータ戦略の進め方まで、自社の立ち位置を客観的に見直す指針が豊富に展開されている。大企業や先進企業の事例が圧倒的に多いなか、「中小企業」に特化する本レポートは非常に貴重な存在といえるだろう。