ビジネスにはいつでもスピードが求められ、外向きにも内向きにも作用させることで、企業は前進し高い競争力を発揮させる。変化に富んだ現代において、競争力の維持向上は難く険しい。今やデジタルテクノロジーの活用いかんが企業におけるスピードと細やかさの源泉と目される。
多くの企業が「デジタルファースト」にシフトするなかで、特にクラウド活用の発展は特出している。オンプレミスでの制約を離れ、コストを最適化しつつ、新たな取り組みを可能にするなど、得られるメリットは多様で多大だ。しかし多様であるが故にリスクも多く潜んでいる。物流が荷馬車からトラックに進化したように輸送量とスピードは増したが、交通事故は激増した。新たなテクノロジーをビジネスに導入する過程において、既存の概念では推測がおよばないリスクは派生していく。クラウドでも同様に、導入したものの望む効果が得られないばかりか、リスクを顕在化させるケースも見受けられる。クラウドの導入は企業決断であり、実行が伴って進化による対価は得られるが、必ずしも進化とリスクはトレードオフの関係ではない。リスクは確かな戦略と運用によって回避することができるのではないだろうか?
本書は、クラウドの導入において企業が陥りやすい顕著な6つの失敗について解説する。読者諸氏もご承知の通り、クラウドは導入さえすれば即効果が得られるほど単純なものではなく、様々な企業事情に対してターンキーで誰もが精緻で完璧な運用ができるほど万能でもない。クラウドから価値を最大限に引き出す重要な鍵となるのは、複雑化するアプリケーションと関連インフラをどこまで効果的に管理できるかという点にある。本書では、「コストの肥大化」「イノベーションの加速と安定性におけるトレードオフ」「セキュリティ戦略が欠如したクラウド戦略の立案」「統合アプローチを備えていないツールの導入」「ツールの増やし過ぎ」「データの価値を引き出しきれない」の6項目のクラウド戦略における失敗例を俎上に載せて、利点、陥りやすい失敗、データ戦略の構成で展開する。回避への方策についてもコメントされる簡潔でわかりやすい内容となっている。本書で指摘される兆候が自社のクラウドで僅かでも観察されるならば、速やかに対処すべきであろう。企業活動に英断は必要であるがビジネスは運任せなギャンブルではない。クラウドに舵を切り、より効果的で確実な管理運用を求む企業人に、本書のご一読とご活用を強くおすすめする。