企業のデジタルシフトが叫ばれて久しく、生産性や競争力に主眼がおかれた企業が、存在を示す外向きな経営要点とする傾向が強いように思われてきた。しかしデジタルが進化と浸透を深めていくなかで、働き方という、企業を形成する人間についての議論も発展してきている。

 

経営の競争力に向かうのか? 働く人に向かうのか? デジタル化の効果・本質は若干つかみにくいが、世界中がコロナ禍にあるなかでデジタルが果たす役割は拡大していることはまちがいない。同時に「デジタルファースト」な企業改革が各所で提唱されており、デジタルに期待される役割は、競争力と働き方の両面にあるといえるのではないだろうか。各国で感染拡大が制御されつつあり、従来の出社を前提としたスタイルに回帰する動きも見られるなど企業ごとの判断にも違いが出てきている。今まで以上に自社の現状を踏まえ意義のあるデジタルファーストを摸索し、用語としてではなく実践していくことが強く問われているのではないだろうか。

 

本書「デジタルファーストの虎の巻」では、働く場所や時間に関係なくコラボレーションを進めるための、業界リーダー企業からのアドバイスを紹介する。まず本書の発行元であるSlackでは、デジタルファーストを「対面のつながりを完全になくすものではない」と宣し、デジタルファーストが求められる背景と3点の重要要素を定義する。さらにデジタルファーストを実践する9つの事例では、The New York Times、クックパッド株式会社など広い業界に渡って「実践する働き方」「自社に取り入れるには」のシンプルな2質問を、各社共通で責任者・経営層が答える明解な形式で展開される。完全リモートワークに懐疑的である経営層の意見なども収録され、正解が存在しないコロナ禍で難しい判断を下す企業のリアルを反映している。デジタルファーストの本質と実践へのヒントが濃密につまった貴重な内容といえるので、業種業界や立場を越え、すべてのビジネスパーソンに本書のご一読を強くおすすめする。