近年“働き方”“生産性”というキーワードを目にする機会が増えてきた。企業改革やデジタル変革とセットで語られることが多く、綿々と続いてきた企業組織のあり方に警鐘を鳴らしている。途上国の台頭による国際競争力低下を鑑みた政策の側面もあるが、企業自身の存続のために何らかの施策を講じなければならない時期に差し掛かっていることを意味している。

 

提起される対象企業はすべての業種業界となっている。働き方は誰もが理解できる事柄だが、生産性というキーワードは製造業などには馴染みがあるが、小売業に代表される他の業界では、自身の業務における生産性のイメージがわかないのではないだろうか? 生産性をひもとけばインプットとアウトプットを指し、マクロ経済的には一般的には労働生産性を意味し、労働力に対してどれだけ価値を生めたかが尺度となる。アウトプットは大きくあるべきだが、直接の売上に携わらない管理部門やナレッジワーカー(知識労働者)ともなれば知見や存在自体に価値を有するので単純に当てはめるのは難しい。生産性向上とは具体的に何を改善すればよいのかと現状に留まり続ける企業も散見される。

 

本書「Slackで3倍のROIを実現する方法」は、この課題に対して“時間”と“投資”という軸を投入することで生産性にまつわる課題をシンプルに可視化する。時給の概念で考察することで企業内にはびこる生産性の阻害要因を顕在化し、本書では従業員の誰もが業務として関わる会議とメールに着目し徹底したコスト意識でメスを入れる。調査数値や事例は“投資”が回収できていない事実を提示し、さらにコミュニケーションの常套手段として慣れ親しむメールを「仕事の効率を下げる要因」と指摘する。現代企業はメールに慣れすぎたためにテクノロジーの進化と改善に目が向かなくなっており、生産性を下げる病巣となっているのかもしれない。非常にインパクトのあるタイトルの本書だが、ご一読いただければ経営資源の見地から「3倍のROI(投資利益率)」も絵空事ではないことがご理解いただけるだろう。ビジネスは常に停滞を嫌い前進を好む。アウトプットの最大化と前進に注力するのが企業のあるべき姿ではないだろうか。