すべての企業は社会に属し、社会に向けてビジネスを展開し発展を続ける。企業の存在は雇用を広く創出し、世界中で経済を回している。国を問わず法令遵守は企業存続の絶対条件だが、他にも今現在対峙する社会に担うべき多くの責任が存在する。
近年の世界を俯瞰すれば、共通する社会課題は新型コロナウイルスによるパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー安全保障など、日本企業も強く影響を受けている。また長期的で未来に向けた社会課題といえば、やはり地球全体の環境保全と言えるだろう。温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスである「カーボンニュートラル」への取り組みは、産官学を巻き込む国家プロジェクトとして世界各国で加速している。しかし新たな技術革新にすべてを委ねるのは過度な楽観であり、政策によるドラスティックな課題解決も未だ現れていない。
各国が表明する政策シナリオを実現したと仮定しても2050年を目処とする「ネットゼロ(温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする)」には到達しない見通しとなっている。社会が脈動する今現在もCO2は排出され続けており、各種の製品・サービスを提供する企業体からも多く排出される。今後、企業の担う「カーボンオフセット」への責任はますます高くなっていくのではないだろうか。本書「加速する企業のCO2排出削減への取り組み」では、二部構成で脱炭素社会を目指す世界の背景と経緯を解説するとともに、現状を分析する。後半では製品・サービス全体の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して温室効果ガスの排出量をCO2に換算する「カーボンフットプリント」について言及する。「カーボンフットプリント」は企業に課せられるCO2排出対策のルールとして欧州を中心に広まり、日本でも2022年からプライム市場上場企業はCO2排出量情報の開示が求められている。この潮流はさらに拡大していくことが予測され、企業であれば無視するべきではない。業種業界問わず、ビジネスパーソンの基礎知識として本書のご一読を強くおすすめする。